コリアニュース №469(2012.3.29)
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朝鮮の人工衛星打ち上げをめぐる狂騒を正す-「国連安保理決議」に正統性なし 浅井基文氏(元外務省職員)
 【朝鮮新報4月11日掲載】朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が人工衛星の打ち上げと説明し、外国記者団にも公開した(8日)にもかかわらず、日本国内では相変わらず「国連安保理決議に違反」する「長距離弾道ミサイルの発射」であるとする報道一色だ。

真実を見極めるカギは三つ、ロケットの汎用的性格、安保理決議の法的有効性そして国際社会、というより国連の性格を理解することだ。 <軍事オタクらの警戒心>

まず、ロケットは軍事目的にも平和目的にも使える。これが汎用的性格ということだ。そして、人工衛星打ち上げに成功するということは、弾道ミサイルを正確に目標地点に到達させる能力を身につけるということを意味する。だから、朝鮮が人工衛星を打ち上げることを米日韓の軍事オタクが警戒し、阻止しようとするのは理由のないことではない。

しかし、同じことは米日韓の人工衛星打ち上げについても当てはまる。日本の場合は平和目的だと政府関係者がいくら言っても、日本が弾道ミサイル能力を保有していることは国際的常識だ。韓国が自前の人工衛星打ち上げにしゃかりきになるのも同じ理由からだ。

ロケットの汎用的性格を承知の上で、宇宙の平和利用は「すべての国の利益のために…行われる…全人類に認められる活動分野」であり、「宇宙空間は、すべての国がいかなる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、かつ、国際法に従って、自由に探査し及び利用することができる」と定めたのが宇宙条約(第1条)だ。だから、「他の国は平和利用だからいいけど、朝鮮は軍事目的だからいけない」と言うのは、宇宙条約の本旨に悖るもので許されない。

次に、朝鮮の打ち上げが安保理決議に違反するという米日韓の言い分自体は間違ってはいない。安保理決議1874は確かに、朝鮮に対して「弾道ミサイル技術を使用するいかなる発射も行わないことを要求」し、朝鮮が「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止すべきことを決定」している。

しかし、安保理決議を鵜呑みにする前にまず問わなければならないのは、安保理は、宇宙条約がすべての国に認めている宇宙の平和利用の権利を朝鮮に限って奪いあげる権限がそもそもあるのかということだ。確かに国連憲章は、「国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」(第25条)と定めている。しかし、だからといって、国際法(宇宙条約)が明確に主権国家に認める権利を安保理が奪いあげるような決定をできるとまで認めているはずがない。

また、軍事目的のための弾道ミサイル計画を国際的に禁じたり、取り締まったりする国際条約はないわけで、上記決議が朝鮮に対してだけその「活動」を停止することを決定する権限もない。

つまり、この安保理決議はそもそも正統性・正当性を主張できるような代物ではないのだ。 <5大国の理不尽さ>どうしてこのような安保理決議が作られてしまったのか。なぜ中国(およびロシア)は拒否権を行使してその成立を阻止しなかったのか。その原因としては、米ソ冷戦が終わって、安保理で米国主導の大国協調体制(大国の馴れ合い政治)が動き始めたことがある。特に、2009年当時の状況が中国とロシアをして無原則な対米協調に走らせたことが大きい。

すなわち、この年に朝鮮は宇宙条約に加盟の上で2月下旬から人工衛星打ち上げを進め、4月5日に打ち上げた。ところが、その日に「核のない世界」を売り物にしたプラハ演説をした米国のオバマ大統領がこの演説で、「北朝鮮は、長距離ミサイルに使われうるロケットをテストすることにより…ルールを破った」と決めつけ、「今こそ…すべての国々が…北朝鮮が歩みを変えるよう圧力をかけ…なければならない」とぶち上げて、安保理を舞台に朝鮮に対する国際的圧力形成に突っ走ったのだ。中国およびロシアは、朝鮮が打ち上げたものが人工衛星であることを認めたにもかかわらず、米国の動きに同調して4月14日の安保理議長声明が出されてしまった。

これに激しく反発した朝鮮(4月14日付外務省声明)が5月25日に核実験を行い、それに対してさらに6月12日に安保理決議1874ができたというわけだ。 この決議は、5大国がつるむと、安保理が如何に理不尽(国際法無視・違反)で危険な行動に走るかを如実に示したものだった。

少し説明が長くなったが、要するに、朝鮮の行動は形式的には安保理決議違反だとしても、当の決議そのものに何らの正当性もないから、朝鮮が恐れ入る理由はさらさらないということだ。

最後に、国連(安保理)は常に正しいとか「米国=国際社会」とか私たちはとかく思いがちで、そこから国連(安保理)に歯向かう朝鮮はけしからんという暗黙の前提が今回の朝鮮バッシングにおいても働いているが、それは正しくない。朝鮮の人工衛星打ち上げ問題を見るに当たっては、大国がつるんで悪いことをしでかさないようにするためにも、国際社会のルールを定める国際法を重視しなければいけない。また、国際法、特に条約は、主権国家が同意し、受け入れるときに限ってその国に適用があるということもしっかりわきまえておこう。(了)

【筆者プロフィール】 1941年愛知県生まれ。東京大学法学部を経て外務省に入省。外務省において、在オーストラリア大使館、在ソ連大使館、条約局国際協定課長、アジア局中国課長、イギリス国際戦略研究所研究員などを務める。東京大学教授、日本大学法学部教授、明治学院大学国際学部教授、広島市立大学広島平和研究所所長を歴任。
 

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